【定義】
相殺の抗弁とは、民事裁判で原告が請求する債権に対し、被告側から反対債権による相殺を主張することです。
【解説】
原告の請求に対し、債権は発生したが消滅した、条件付きだったなどと請求を成り立たなくさせる主張をすることを抗弁といいます。相殺は、双方が互いに債権(たとえば貸金債権と売掛債権)を保有しあっている場合に、一方の意思表示により両方の債権を対当額で消滅させることができるという制度です。
相殺の抗弁には、既判力に関する特則があります。既判力とは、確定判決が後日の別の訴訟において裁判所の判断を拘束する(矛盾する判断はできなくなる)効力です。通常は、既判力は主文に示された判断に限定されるのですが(民事訴訟法114条1項)、例外的に相殺の抗弁が主張された場合の被告の反対債権については理由中の判断でも既判力を生じます(同条2項)。
したがって、相殺の抗弁が認められた場合はもとより、反対債権の存在が認められないから原告の請求を認容するという場合にも、後日の裁判にその判断が影響し、たとえば同じ反対債権をさらに回収しようとして訴えを提起しても、こういう判決があったと示されればそれだけで棄却されることになります。
そのため、訴訟上の相殺は通常、予備的に主張されます。予備的主張とは、たとえば原告の請求に対して弁済済みである、不法行為が成立していないなど、ほかの理由を主位的に上げ、それらを先に判断してもらってもし認められないのであれば相殺について判断してほしいという条件付きの主張のことです。仮に被告の主張の中で順位が明らかでなくても、裁判所の方で配慮して相殺は後回しに判断するという運用も行われています。
【関連用語】
・抗弁
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【参考条文】
民法
(相殺の要件等)
第505条第1項 二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、
各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。
ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
第2項 前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。
ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。
(相殺の方法及び効力)
第506条第1項 相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。
この場合において、その意思表示には、条件又は期限を付することができない。
第2項 前項の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。
民事訴訟法
(既判力の範囲)
第114条第1項 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。
第2項 相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を
有する。