【定義】
認知の訴えとは、父に対して訴えを提起して強制的に認知の効果を発生させる手続です。
【解説】
非嫡出子と生物学上の父親との間に法律上の親子関係を発生させるためには認知が必要です。
認知には任意認知と強制認知があり、任意認知は父親が役所に認知届を提出することで行い、強制認知は子の側から認知の訴えを提起することで行います。
認知の訴えを提起できるのは、「子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人」です(民法787条本文)。
直系卑属とは子や孫のことです。子が未成年の間は母親が法定代理人として認知の訴えを提起できます。
認知の訴えは父親の生存中はいつでも提起できますが、父の死亡後は3年以内に提訴しなければなりません(同条但書)。この期間に行う強制認知を死後認知といい、被告は検察官とします(人事訴訟法12条3項)。
認知の訴えは人事訴訟に該当し(同法2条2号)、調停前置主義が適用されます(家事事件手続法257条1項)。調停で話し合って認知する方向で合意ができれば、裁判所が「合意に相当する審判」(同法277条)を行うことで手続を終了させられます。合意ができない場合は改めて訴えを提起し、原告側で父子の血縁関係を立証する必要があります。近年ではDNA鑑定を行うのが一般的ですが、父が拒絶している場合に強制的な鑑定はできません。しかし、血液型や母親の証言その他を総合して血縁関係を認定することもできます。
認知の訴えが判決で認められると、子の出生のときにさかのぼって父子関係が発生します(民法784条)。これにより扶養を受ける権利や相続権が生じますが、相続については他の相続人との調整に関する規定があります(同法910条)。
【関連用語】
・非嫡出子
・調停前置
子の父親が認知に応じてくれない、強制認知の見込みが知りたいなどお悩みの方は一度弁護士にご相談ください。
【参考条文】
民法
(認知の効力)
第784条 認知は、出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。
ただし、第三者が既に取得した権利を害することはできない。
(認知の訴え)
第787条 子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる。
ただし、父又は母の死亡の日から3年を経過したときは、この限りでない。
(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
第910条 相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続入が
既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。
人事訴訟法
(定義)
第2条 この法律において「人事訴訟」とは、次に掲げる訴えその他の身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴え(以下「人事に関する訴え」という。)に係る訴訟をいう。
一 婚姻の無効及び取消しの訴え、離婚の訴え、協議上の離婚の無効及び取消しの訴え並びに婚姻関係の存否の確認の訴え
二 嫡出否認の訴え、認知の訴え、認知の無効及び取消しの訴え、民法(明治二十九年法律第八十九号)第七百七十三条の
規定により父を定めることを目的とする訴え並びに実親子関係の存否の確認の訴え
三養子縁組の無効及び取消しの訴え、離縁の訴え、協議上の離縁の無効及び取消しの訴え並びに養親子関係の存否の確認
の訴え
(被告適格)
第12条第1項 人事に関する訴えであって当該訴えに係る身分関係の当事者の一方が提起するものにおいては、特別の
定めがある場合を除き、他の一方を被告とする。
第2項 人事に関する訴えであって当該訴えに係る身分関係の当事者以外の者が提起するものにおいては、特別の
定めがある場合を除き、当該身分関係の当事者の双方を被告とし、その一方が死亡した後は、
他の一方を被告とする。
第3項 前二項の規定により当該訴えの被告とすべき者が死亡し、被告とすべき者がないときは、検察官
を被告とする。
家事事件手続法
(調停前置主義)
第257条第1項 第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、
まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。
第2項 前項の事件について家事調停の申立てをすることなく訴えを提起した場合には、裁判所は、職権で、
事件を家事調停に付さなければならない。
ただし、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めるときは、この限りでない。
第3項 裁判所は、前項の規定により事件を調停に付する場合においては、事件を管轄権を有する家庭裁判所に
処理させなければならない。ただし、家事調停事件を処理するために特に必要があると認めるときは、
事件を管轄権を有する家庭裁判所以外の家庭裁判所に処理させることができる。
(合意に相当する審判の対象及び要件)
第277条第1項 人事に関する訴え(離婚及び離縁の訴えを除く。)を提起することができる事項についての家事調停の
手続において、次の各号に掲げる要件のいずれにも該当する場合には、家庭裁判所は、必要な事実を
調査した上、第一号の合意を正当と認めるときは、当該合意に相当する審判(以下「合意に相当する
審判」という。)をすることができる。
ただし、当該事項に係る身分関係の当事者の一方が死亡した後は、この限りでない。
一 当事者間に申立ての趣旨のとおりの審判を受けることについて合意が成立していること。
二 当事者の双方が申立てに係る無効若しくは取消しの原因又は身分関係の形成若しくは存否の原因について
争わないこと。
第2項 前項第一号の合意は、第二百五十八条第一項において準用する第五十四条第一項及び
第二百七十条第一項に規定する方法によっては、成立させることができない。
第3項 第一項の家事調停の手続が調停委員会で行われている場合において、合意に相当する審判をするときは、
家庭裁判所は、その調停委員会を組織する家事調停委員の意見を聴かなければならない。
第4項 第二百七十二条第一項から第三項までの規定は、家庭裁判所が第一項第一号の規定による合意を正当と
認めない場合について準用する。