【定義】
仮差押えとは、債権の回収手続をしている間に相手が財産状態が変わって回収できなくなってしまうことを防ぐため、
あらかじめ相手方の財産を差し押さえて処分を禁止することができる制度です。
【解説】
債権を回収するためには、訴訟を起こすなどして債務名義を取り、それから強制執行を申し立てて相手の財産を差し
押さえるなどの手続をとらなければならないのが原則です。
しかし、この一連の手続には時間がかかるため、手遅れになってしまう可能性があります。
たとえば、相手の預金口座がわかっているのに、訴訟をしている間にお金を全部引き出されてしまうようなケースです。
そのような場合には、自分に債権があることと、その回収が実現できなくなってしまうおそれがあることについて裁判
所に疎明し、本来の回収手続(本案)前に債権を保全してもらうことができます。これを民事保全制度といい、仮差押えがその中で主要な位置づけの手続です。
仮差押えは急速を要する場合も多く、また基本的に債務者を呼び出すこともしないため、債権者側が短時間で十分に
裁判官を説得できるだけの資料を用意しなければなりまません。裁判官が被保全権利の存在と保全の必要性を認めれば、仮差押命令が出されます。
ただし多くの場合、被保全債権額の何割かの金額を担保として納めなさいという条件が付されます。
仮差押命令の効果として、対象の財産が預金や給与債権などの債権であれば第三債務者(銀行や会社)に対して債務者
への弁済禁止命令が出されます。
離婚の際に財産分与や慰謝料を請求したいが相手が財産を隠してしまいそうな場合、仮差押を使うことがあります。
状況により適切かどうかの判断が必要ですので、弁護士によくご相談ください。
【関連用語】
・強制執行
・債務名義
・財産分与
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【参考条文】
民事保全法
(保全命令の担保)
第14条第1項 保全命令は、担保を立てさせて、若しくは相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の
実施の条件として、又は担保を立てさせないで発することができる。
第2項 前項の担保を立てる場合において、遅滞なく第四条第一項の供託所に供託することが困難な事由があるとき
は、裁判所の許可を得て、債権者の住所地又は事務所の所在地その他裁判所が相当と認める地を管轄する地
方裁判所の管轄区域内の供託所に供託することができる。
第二款 仮差押命令
(仮差押命令の必要性)
第20条第1項 仮差押命令は、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがある
とき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。
第2項 仮差押命令は、前項の債権が条件付又は期限付である場合においても、これを発することができる。
(仮差押命令の対象)
第21条 仮差押命令は、特定の物について発しなければならない。ただし、動産の仮差押命令は、目的物を特定しないで
発することができる。
(仮差押解放金)
第22条第1項 仮差押命令においては、仮差押えの執行の停止を得るため、又は既にした仮差押えの執行の取消しを得る
ために債務者が供託すべき金銭の額を定めなければならない。
第2項 前項の金銭の供託は、仮差押命令を発した裁判所又は保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管
轄区域内の供託所にしなければならない。
第二節 仮差押えの執行
(不動産に対する仮差押えの執行)
第47条第1項 民事執行法第四十三条第一項に規定する不動産(同条第二項の規定により不動産とみなされるものを
含む。)に対する仮差押えの執行は、仮差押えの登記をする方法又は強制管理の方法により行う。
これらの方法は、併用することができる。
第2項 仮差押えの登記をする方法による仮差押えの執行については、仮差押命令を発した裁判所が、保全執行裁判
所として管轄する。
第3項 仮差押えの登記は、裁判所書記官が嘱託する。
第4項 強制管理の方法による仮差押えの執行においては、管理人は、次項において準用する民事執行法第百七条第
一項の規定により計算した配当等に充てるべき金銭を供託し、その事情を保全執行裁判所に届け出なければ
ならない。
第5項 民事執行法第四十六条第二項、第四十七条第一項、第四十八条第二項、第五十三条及び第五十四条の規定は
仮差押えの登記をする方法による仮差押えの執行について、同法第四十四条、第四十六条第一項、第四十七
条第二項、第六項本文及び第七項、第四十八条、第五十三条、第五十四条、第九十三条から第九十三条の三
まで、第九十四条から第百四条まで、第百六条並びに第百七条第一項の規定は強制管理の方法による仮差押
えの執行について準用する。
(船舶に対する仮差押えの執行)
第48条第1項 船舶に対する仮差押えの執行は、仮差押えの登記をする方法又は執行官に対し船舶の国籍を証する文書
その他の船舶の航行のために必要な文書(以下この条において、「船舶国籍証書等」という。)を取り上
げて保全執行裁判所に提出すべきことを命ずる方法により行う。これらの方法は、併用することができる。
第2項 仮差押えの登記をする方法による仮差押えの執行は仮差押命令を発した裁判所が、船舶国籍証書等の取上げ
を命ずる方法による仮差押えの執行は船舶の所在地を管轄する地方裁判所が保全執行裁判所として管轄する。
第3項 前条第三項並びに民事執行法第四十六条第二項、第四十七条第一項、第四十八条第二項、第五十三条及び
第五十四条の規定は仮差押えの登記をする方法による仮差押えの執行について、同法第四十五条第三項、第四十
七条第一項、第五十三条、第百十六条及び第百十八条の規定は船舶国籍証書等の取上げを命ずる方法による仮差
押えの執行について準用する。
(動産に対する仮差押えの執行)
第49条第1項 動産に対する仮差押えの執行は、執行官が目的物を占有する方法により行う。
第2項 執行官は、仮差押えの執行に係る金銭を供託しなければならない。仮差押えの執行に係る手形、小切手その
他の金銭の支払を目的とする有価証券でその権利の行使のため定められた期間内に引受け若しくは支払の
ための提示又は支払の請求を要するものについて執行官が支払を受けた金銭についても、同様とする。
第3項 仮差押えの執行に係る動産について著しい価額の減少を生ずるおそれがあるとき、又はその保管のために
不相応な費用を要するときは、執行官は、民事執行法の規定による動産執行の売却の手続によりこれを売却
し、その売得金を供託しなければならない。
第4項 民事執行法第百二十三条から第百二十九条まで、第百三十一条、第百三十二条及び第百三十六条の規定は、
動産に対する仮差押えの執行について準用する。
(債権及びその他の財産権に対する仮差押えの執行)
第50条第1項 民事執行法第百四十三条に規定する債権に対する仮差押えの執行は、保全執行裁判所が第三債務者に対し
債務者への弁済を禁止する命令を発する方法により行う。
第2項 前項の仮差押えの執行については、仮差押命令を発した裁判所が、保全執行裁判所として管轄する。
第3項 第三債務者が仮差押えの執行がされた金銭の支払を目的とする債権の額に相当する金銭を供託した場合に
は、債務者が第二十二条第一項の規定により定められた金銭の額に相当する金銭を供託したものとみなす。
ただし、その金銭の額を超える部分については、この限りでない。
第4項 第一項及び第二項の規定は、その他の財産権に対する仮差押えの執行について準用する。
第5項 民事執行法第百四十五条第二項から第五項まで、第百四十六条から第百五十三条まで、第百五十六条、
第百六十四条第五項及び第六項並びに第百六十七条の規定は、第一項の債権及びその他の財産権に対する
仮差押えの執行について準用する。
(仮差押解放金の供託による仮差押えの執行の取消し)
第51条第1項 債務者が第二十二条第一項の規定により定められた金銭の額に相当する金銭を供託したことを証明したとき
は、保全執行裁判所は、仮差押えの執行を取り消さなければならない。
第2項 前項の規定による決定は、第四十六条において準用する民事執行法第十二条第二項の規定にかかわらず、
即時にその効力を生ずる。