不倫相手が妊娠したことは、一般的には慰謝料の増額要素だといわれています。中絶については、請求する権利はありません。相手女性が生むか生まないかは自由なので、生んだ上で認知を請求される可能性もあります。
1.不倫による妊娠のパターン① 夫が不倫して相手女性が妊娠
不貞行為による慰謝料は、不貞をされた配偶者の精神的苦痛の大きさで決まります。
夫が他の女性と肉体関係を持ったというだけでなく、その間に子供までできたということは、精神的苦痛を通常より大きいと評価する理由になります。
まず、妊娠した事実については、避妊手段の発達した現代においては肉体関係の自然の結果と見ることはできず、コントロールできるものをあえてしなかったと考えるのが自然です。
妊娠という事実だけで、不倫関係が深く継続的なものだったことをうかがわせるので、精神的苦痛は一般的に大きくなります。
さらにその後出産した場合、夫に婚外子があるという事実は通常受け入れがたいものですから、やはり慰謝料を増額させる事情になります。夫がその子を認知していた場合も同様です。
浮気相手の女性が妊娠している場合、またはすでに出産している場合、問題の解決方法として慰謝料のやり取りだけではすまないのが通常です。
妊娠中であれば中絶するのか、その費用負担はどうするのか、出産後であれば認知はどうなっているのか、養育費はどうするのかなどの問題が生じます。とくに離婚しない場合、ケースによっては、慰謝料を減額ないし免除する代わりに中絶してもらう、養育費を一括払いして認知を求めないでもらうなどの柔軟な解決が必要となることもあります。
しかし、相手女性の妊娠出産に関しては、次のような注意点があります。
①中絶を請求する権利はない。
胎児を中絶するかどうかを決めることができるのは、妊婦本人だけです。
②中絶を約束した場合でも、強制執行はできない。
仮に相手女性が示談書などで中絶を約束したとしても、気が変わって産もうと思ったならば、それを止める手段はありません。
③子供が生まれれば、相手は夫に認知を請求することができる。任意認知をしなければ強制認知(認知の訴え)という方法も取ることができる。認知をしない約束は、子供自身の認知請求権には影響しない。
父親に対して認知を請求することは子供自身の権利です。
認知は父親が認知届を提出して行う任意認知と、子供側から裁判を起こして認知させる強制認知があり、強制認知ではDNA鑑定などを利用して父子関係を認定できれば認知が認められます。
示談書などで認知は請求しないと約束しても、子供自身の権利には影響しないため、子供が後に認知の訴えを起こすことはできるし、その際に母親が法定代理人となることもできます。
④認知により父子関係が発生した後は、父親として養育費の支払い義務がある。金額は双方の収入と扶養する人数によって決まる。
認知により法律上の親子関係が発生し、扶養義務が生じるので、子供を監護する母親に対し、父親として養育費の支払い義務を負います。
2.不倫による妊娠のパターン② 妻が不倫して妊娠
この場合でも、妊娠という事情が慰謝料増額の方向に働くことは同じです。
妻の不貞による妊娠出産に関しては、次のような注意点があります。
①中絶を請求する権利はない。
この場合も、たとえ夫であっても、妻に中絶を請求する権利はありません。
②子供が生まれた場合、夫が法律上の父親になってしまう。これを否定するためには、出生を知った時から1年以内に嫡出否認の訴えを提起する必要がある。
婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定するという嫡出推定の制度があるため(民法772条1項)、夫が法律上の父親と推定されます。
このため、夫には原則として扶養義務が生じ、離れて暮らせば養育費の支払い義務もあります。
妊娠中に離婚した場合でも、懐胎時期が婚姻中であったならば、嫡出推定の適用があります。嫡出推定を覆すための制度として嫡出否認の訴えが定められていますが、子供の身分関係の早期安定のため、出訴期間が出生を知った時から1年以内と厳しく制限されています。
1年を過ぎてしまえば、たとえ不倫に気づかず自分の子供だと信じていた場合であっても、原則として法律上の親子関係は覆せなくなります。
ただし、子供の懐胎時期に夫が遠隔地に居住していたなど、夫婦間での性的関係の機会がなかったことが明らかな場合は、期間制限のない親子関係不存在確認の訴えを起こすことが認められる場合があります。