【定義】
給料の差押えとは、会社員等である債務者が勤務先に対して有する給料債権を差し押さえることです。
【解説】
会社員が会社に対して持っている給料債権のような債権も、債務者の財産の一部であり、強制執行の対象となります。
強制執行の手続の中では、この場合の会社にあたる立場の人を第三債務者といいます。債務者のそのまた債務者という意味です。
債権に対する強制執行は、まず差押命令で始まります(民事執行法145条)。差押命令は、債務者に対してはその債権を取り立てたり処分したりしてはいけないこと、第三債務者に対してはその債権について債務者への弁済をしてはいけないことを命じる内容で、両者に送達されます。その後、1週間が経過すると債権者が第三債務者に対して直接取り立てることもできるようになります(同法155条)。
給料の差押えは、債務者の勤務先がわかっていれば利用できるうえ、毎月確実にある程度の金額を回収できるので効果が大きいといえます。
しかし給料の特殊性として、債務者にとっては生活の糧でもあり行き過ぎた利用は人道に反する結果となりかねないことから、一定割合に当たる部分は差押禁止債権とされています(同法152条)。その割合とは、通常は4分の3(または33万円のどちらか少ない方)、婚姻費用や養育費に関しては2分の1(または33万円のどちらか少ない方)です。
なお、婚姻費用や養育費を月いくらと決めた合意がすでにあり、その不履行があるために強制執行する場合には、まだ不履行とは限らない将来の毎月の分についても給料の差押えができるという特則があります(同法151条の2)。
【関連用語】
・強制執行
強制執行を利用した方がよいか、どの財産に対して行うのが効果的かなどは、弁護士に相談してよくご検討ください。
当事務所では初回30分無料の法律相談を実施中です。
【参考条文】
民事執行法
第四款 債権及びその他の財産権に対する強制執行
第一目 債権執行等
(債権執行の開始)
第143条第1項 金銭の支払又は船舶若しくは動産の引渡しを目的とする債権(動産執行の目的となる有価証券が発行されている債権を除く。以下この節において「債権」という。)に対する強制執行(第百六十七条の二第二項に規定する少額訴訟債権執行を除く。以下この節において「債権執行」という。)は、執行裁判所の差押命令により開始する。
(差押命令)
第145条第1項 執行裁判所は、差押命令において、債務者に対し債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ、第三債務者に対し債務者への弁済を禁止しなければならない。
第2項 差押命令は、債務者及び第三債務者を審尋しないで発する。
第3項 差押命令は、債務者及び第三債務者に送達しなければならない。
第4項 差押えの効力は、差押命令が第三債務者に送達された時に生ずる。
第5項 差押命令の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
(継続的給付の差押え)
第151条 給料その他継続的給付に係る債権に対する差押えの効力は、差押債権者の債権及び執行費用の額を限度として、差押えの後に受けるべき給付に及ぶ。
(扶養義務等に係る定期金債権を請求する場合の特例)
第151条の2第1項 債権者が次に掲げる義務に係る確定期限の定めのある定期金債権を有する場合において、その一部に不履行があるときは、第三十条第一項の規定にかかわらず、当該定期金債権のうち確定期限が到来していないものについても、債権執行を開始することができる。
一民法第七百五十二条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
二民法第七百六十条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
三民法第七百六十六条(同法第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条におい
て準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
四民法第八百七十七条から第八百八十条までの規定による扶養の義務
第2項 前項の規定により開始する債権執行においては、各定期金債権について、その確定期限の到来後に弁済期が到来する給料その他継続的給付に係る債権のみを差し押さえることができる。
(差押禁止債権)
第152条第1項 次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。
一債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権二給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権第2項 退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給付の四分の三に相当する部分は、差し押さえてはならない。
第3項 債権者が前条第一項各号に掲げる義務に係る金銭債権(金銭の支払を目的とする債権をいう。以下同じ。)を請求する場合における前二項の規定の適用については、前二項中「四分の三」とあるのは、「二分の一」とする。
(差押債権者の金銭債権の取立て)
第155条第1項 金銭債権を差し押さえた債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から一週間を経過したときは、その債権を取り立てることができる。ただし、差押債権者の債権及び執行費用の額を超えて支払を受けることができない。
第2項 差押債権者が第三債務者から支払を受けたときは、その債権及び執行費用は、支払を受けた額の限度で、弁済されたものとみなす。
第3項 差押債権者は、前項の支払を受けたときは、直ちに、その旨を執行裁判所に届け出なければならない。