【定義】
家事調停とは、離婚などの家庭内の問題に関する争いを収めるため、家庭裁判所で行う調停です。
【解説】
調停は紛争解決のための公的な制度の一種で、公的機関が間に入って両当事者を取り持ち、合意による解決をめざすというものです。一般の方がトラブルを抱え、当事者同士の話し合いではうまくいかないという場合に利用できる公的サービスです。トラブルが家庭内のものであれば家事調停、それ以外の民事の問題に関するものであれば民事調停を利用することになります。
家事調停の対象となるのは、「人事に関する訴訟事件その他家庭に関する事件」(家事事件手続法244条)です。
具体的には、次のものが含まれます。
①人事訴訟事件(人事訴訟法2条)
婚姻関係 ( 同条1号 ):婚姻の無効・取消しの訴え、離婚の訴え、協議離婚の無効・取消しの訴え、婚姻関係の存否の
確認の訴え
実親子関係(同条2号):嫡出否認の訴え、認知の訴え、認知の無効・取消しの訴え、民法773条による父を定める訴え、
実親子関係の存否の確認の訴え
養親子関係(同条3号):養子縁組の無効・取消しの訴え、離縁の訴え、協議離縁の無効・取消しの訴え、養親子関係の
存否の確認の訴え
②家事事件手続法別表第2事件
夫婦間の協力扶助、婚姻費用分担、子の監護、財産分与、離婚における祭具等承継、離縁における祭具等承継、
離縁後の親権者指定、親権者の指定・変更、扶養の順位、扶養の程度方法、相続における祭具等承継、遺産分割、
遺産分割の禁止、寄与分、年金分割、生活保護と扶養義務者の負担
③家庭に関する通常の民事事件
夫婦間の慰謝料請求、相続回復請求、遺留分減殺請求など
④その他家庭に関する事件
夫婦関係円満調整など
離婚を含む訴訟事件(上記①と③)については、いきなり訴えを提起するのでなく、まず調停で解決を図って、だめなら訴訟を提起してくださいという建前が採られています(家事事件手続法257条1項)。
これを「調停前置主義」といいます。
訴訟は基本的に証拠で事実を認定し、そこへ法律を適用して結論を出し、強制的に事件を解決するものですが、家庭内の問題ははっきり白黒つけるよりも、当事者の感情や今後の関係にも十分配慮しなければ良い解決とはなりません。
そこで、できるだけ合意による解決ができるよう、話し合いの機会を設けさせる趣旨です。
調停前置が必要な事件について誤って訴えが提起された場合、裁判所が職権で調停を開始させます(付調停。同条2項)。
家事調停の手続の概要を説明します。
まず、当事者が調停申立書に申立ての趣旨と理由を記載して管轄(原則として相手方の住所地。同法245条)の家庭裁判所に提出します(同法255条)。近年の法改正により、原則として申立書の写しが相手方に送付されることになりました(同法256条)。その後、期日の呼び出しがあるので(同法51条1項、258条1項)、出頭して裁判所で話し合いを進めていきます。代理人弁護士がいる場合でも、本人も同行するのが原則です(同法51条2項、258条1項)。
もっとも、法改正により電話会議システムが利用できるようになったので、遠方の当事者は電話で調停期日に参加することができます。
期日に出頭すると、2名の調停委員のいる部屋に入って当事者が事情を説明したり、調停委員の意見を聞いたりして話し合いを進めていきます。
裁判官は多忙なのですべての期日には立ち会わず、成立など重要な局面にのみ同席します。双方当事者が同時に部屋に入ることもありますが、感情的な対立を避けるため、多くのケースでは交互に一人ずつ部屋に入ってもらい、それぞれの言い分を調停委員がすり合わせながら妥協点を探っていく方式が採られます。
そのため待ち時間が長くなりますが、通常は待合室も相手方と別々になっています。
話し合いの結果、両当事者が合意に達すれば、後述の合意に相当する審判の場合を除いて、調停条項が作成され、
裁判官と調停委員、書記官、両当事者の同席のもと、裁判官が各条項を読み上げて合意を確認したうえで、調停条項と同内容の調停調書を作成し、調停成立となります(同法268条1項)。
調停調書には確定判決と同一の効力があるため、お金の約束をする条項があれば強制執行も申し立てられることになります。成立に至るまでには、1回の期日で済むこともありますが、数回の期日を重ねることもしばしばです。
なお、電話会議を利用できる遠方の当事者でも、離婚の成立に際しては出席が必要になります(同法268条3項)。
上記①の人事訴訟事件のうち離婚と離縁を除いたものについては、合意ができていてもそのまま調停成立にはせず、同じ内容の審判を出して、裁判所の判断で終わった形にします(合意に相当する審判。同法277条)。
一方、双方の言い分を聞いたが話し合いの芽がない、合意の余地がないと思われる場合、不成立として処理され、
調停は終了します(同法272条1項)。
申立てをした当事者が調停を取り下げて終了させることもできます(同法273条)。
成立と不成立の中間的なケース、すなわちだいたいの条項については合意できているが、一部についての対立が解消できない状況で、しかし裁判所の判断には従うというようなケースでは、その部分だけ裁判所が判断するなどし、全体として審判で終わらせることもできます(調停に代わる審判。同法284条)。
不成立になった事件がその後どうなるかは、事件の種類により異なります。
上記②の別表第二事件については、自動的に家事審判に移行します。
その他の事件(①と③)は、続けて裁判所による解決を望むのであれば、別途人事訴訟や民事訴訟の提起が
必要になります。
【関連用語】
・調停離婚
・審判離婚
・調停前置主義
・家事事件手続法
・調停委員
・家事審判
・人事訴訟
家事調停はどなたにも利用できる手続ですが、弁護士が代理人として入ることにより、必要な情報を効率よく調停委員側
に示し、有利な調停条項へ近づくことができます。申し立てる側、申し立てられた側問わず、ご不安がある方はぜひ一度ご相談ください。名古屋駅前、春日井駅前で30分間の無料相談を実施しております。
【参考条文】
人事訴訟法第2条 この法律において「人事訴訟」とは、次に掲げる訴えその他の身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴え(以下「人事に関する訴え」という。)に係る訴訟をいう。
一 婚姻の無効及び取消しの訴え、離婚の訴え、協議上の離婚の無効及び取消しの訴え並びに婚姻関係の存否の
確認の訴え
二 嫡出否認の訴え、認知の訴え、認知の無効及び取消しの訴え、民法(明治二十九年法律第八十九号)
第七百七十三条の規定により父を定めることを目的とする訴え並びに実親子関係の存否の確認の訴え
三 養子縁組の無効及び取消しの訴え、離縁の訴え、協議上の離縁の無効及び取消しの訴え並びに養親子関係の
存否の確認の訴え
家事事件手続法第244条~第288条、別表第二