【定義】
仮執行宣言とは、一定の民事の裁判に付随して出すことのできる宣言で、当該裁判が確定する前でも執行することのできる効力を与えるものです。
【解説】
判決に書かれた「被告は原告に金〇〇円を支払え」などの給付義務を強制執行を使って実現できる効力のことを執行力といいます。執行力は、判決が控訴や上告でひっくり返ることのなくなった状態(確定)になってはじめて生じるのが本来ですが、それだけでは不都合があります。
すなわち、お金の問題ではとくに、強制執行するには差押えなどでかかっていける相手方の財産がなければならず、その状況は流動的で、グズグズしていると財産が散逸してしまったり所在不明になったりすることがあります。しかも、相手方がわざと上訴して執行を引き延ばすという悪用の可能性もあります。
それではせっかく勝訴しても意味がなく、民事訴訟制度の意義が失われてしまいます。そこで、「財産権上の請求に関する判決」について、仮執行の制度が認められているのです(民事訴訟法259条1項)。また、支払督促には一定の要件の下、裁判所書記官が仮執行宣言を付すこととなっています(民事訴訟法391条)。
仮執行宣言が付けられれば、その判決や支払督促を債務名義としてただちに強制執行を申し立てることができ(民事執行法22条2号、4号)、たとえ控訴されても執行は進みます。
判決に対する仮執行宣言は申立て又は職権により付されます。実務上、訴状の請求の趣旨欄に記載するのが通常です。
仮執行は勝訴当事者の利益のための制度である反面、敗訴当事者にとっては不利な制度です。その面のバランスを取るため、強制執行の停止(同法39条1項1号)、仮執行免脱宣言(民事訴訟法259条3項)、原状回復(同法260条2項)などの制度があります。
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【参考条文】
民事訴訟法
(仮執行の宣言)
第259条第1項 財産権上の請求に関する判決については、裁判所は、必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、担保を立てて、又は立てないで仮執行をすることができることを宣言することができる。
第2項 手形又は小切手による金銭の支払の請求及びこれに附帯する法定利率による損害賠償の請求に関する判決については、裁判所は、職権で、担保を立てないで仮執行をすることができることを宣言しなければならない。ただし、裁判所が相当と認めるときは、仮執行を担保を立てることに係らしめることができる。
第3項 裁判所は、申立てにより又は職権で、担保を立てて仮執行を免れることができることを宣言することができる。
第4項 仮執行の宣言は、判決の主文に掲げなければならない。前項の規定による宣言についても、同様とする。
第5項 仮執行の宣言の申立てについて裁判をしなかったとき、又は職権で仮執行の宣言をすべき場合においてこれをしなかったときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、補充の決定をする。第三項の申立てについて裁判をしなかったときも、同様とする。
第6項 第七十六条、第七十七条、第七十九条及び第八十条の規定は、第一項から第三項までの担保について準用する。
(仮執行の宣言の失効及び原状回復等)
第260条第1項 仮執行の宣言は、その宣言又は本案判決を変更する判決の言渡しにより、変更の限度において
その効力を失う。
第2項 本案判決を変更する場合には、裁判所は、被告の申立てにより、その判決において、仮執行の宣言に基づき
被告が給付したものの返還及び仮執行により又はこれを免れるために被告が受けた損害の賠償を原告に命じ
なければならない。
第3項 仮執行の宣言のみを変更したときは、後に本案判決を変更する判決について、前項の規定を適用する。
民事執行法
(強制執行の停止)
第39条第1項 強制執行は、次に掲げる文書の提出があつたときは、停止しなければならない。
一 債務名義(執行証書を除く。)若しくは仮執行の宣言を取り消す旨又は強制執行を許さない旨を記載した執行力のある裁判の正本
二 債務名義に係る和解、認諾、調停又は労働審判の効力がないことを宣言する確定判決の正本
三 第二十二条第二号から第四号の二までに掲げる債務名義が訴えの取下げその他の事由により効力を失つたことを証する調書の正本その他の裁判所書記官の作成した文書
四 強制執行をしない旨又はその申立てを取り下げる旨を記載した裁判上の和解若しくは調停の調書の正本又は労働審判法(平成十六年法律第四十五号)第二十一条第四項の規定により裁判上の和解と同一の効力を有する労働審判の審判書若しくは同法第二十条第七項の調書の正本
五 強制執行を免れるための担保を立てたことを証する文書
六 強制執行の停止及び執行処分の取消しを命ずる旨を記載した裁判の正本
七 強制執行の一時の停止を命ずる旨を記載した裁判の正本
八 債権者が、債務名義の成立後に、弁済を受け、又は弁済の猶予を承諾した旨を記載した文書
第2項 前項第八号に掲げる文書のうち弁済を受けた旨を記載した文書の提出による強制執行の停止は、四週間に限るものとする。
第3項 第一項第八号に掲げる文書のうち弁済の猶予を承諾した旨を記載した文書の提出による強制執行の停止は、二回に限り、かつ、通じて六月を超えることができない。
(執行処分の取消し)
第40条第1項 前条第一項第一号から第六号までに掲げる文書が提出されたときは、執行裁判所又は執行官は、既にした執行処分をも取り消さなければならない。
第2項 第十二条の規定は、前項の規定により執行処分を取り消す場合については適用しない。