婚姻関係が破綻しているかどうかについて明確な基準はなく、個々の事案ごとに判断されます。不貞行為以前に夫婦が別居や離婚協議をしているなどの事情があれば破綻が認められやすいです。
1.婚姻関係の破綻とは
婚姻関係の破綻(はたん)とは、夫婦としての関係が壊れてしまっていることです。
不貞行為が不法行為となるのは、婚姻共同生活の平穏を害するためです。そもそも関係が壊れている夫婦の場合、守るべき婚姻共同生活の平穏が存在しません。そのため、不貞行為があった時点で婚姻関係の破綻が認められる場合には、不貞の慰謝料は請求できないのです。
2.婚姻関係の破綻の例
具体的にどのような場合であれば婚姻関係の破綻と認められるのかについて、明確な基準はありません。裁判では、個々の事案のさまざまな事情から判断されています。
婚姻関係の破綻を認めた有名な最高裁判決(最高裁平成8年3月26日判決)は、次のような事案でした。
・夫の不貞で、妻が不貞相手を訴えた事案
・不貞の時点で夫婦は婚姻21年目、子供あり
・以前から不仲だったが17年目ごろに財産のことで喧嘩をして関係が非常に悪化、妻が包丁をちらつかせることもあった
・19年目には夫から離婚調停を申し立てたが妻は出席せず、夫は取り下げた
・20年目に夫は入院し、退院と同時に別居を開始
・不貞相手とは別居前に知り合い、別居後に肉体関係
・夫は不貞相手に対し、妻とは離婚すると伝えていた
この最高裁判決のほか、さまざまな裁判例を踏まえると、別居や離婚調停などの事実は破綻の認定に結び付きやすいといえます。しかし「これがあれば必ず破綻」という法則は存在しません。個々の事案によって、たくさんの事情の積み重ねから判断されるものとなっています。
3.婚姻関係の破綻は被告側で立証する必要がある
慰謝料請求の訴訟(裁判)において、婚姻関係が破綻しているという主張は、不貞慰謝料の請求を成り立たせなくするために、不貞相手である被告から出すものです。
裁判では、自分に有利な主張は自分で立証しなければならないというのが原則ですので、婚姻関係が破綻しているという主張の立証責任は被告側にあります。したがって、被告は、訴訟において、破綻を基礎づける事実を主張し、その立証のための証拠を提出しなければなりません。被告が破綻の事実を立証できなければ、破綻の抗弁は認められません。
そのため、不貞相手である被告が、夫婦の婚姻関係の破綻を理由に慰謝料の支払を免れることはそう簡単ではありません。入手できる証拠や不貞をした配偶者の証言を得られるかなども影響しますので、弁護士にご相談ください。