交際相手が既婚者であることを知らず、そのことについて過失もない場合、法的には不貞行為の慰謝料の支払義務を負いません。
もっとも、既婚者であると知らなかったとしても、出会った経緯や交際中の周辺の状況などから、既婚者であることを知らなかったことにつき過失があると認定されることはあり得ます。その場合には不貞行為の慰謝料の支払義務を負います。
1.慰謝料請求には故意・過失が必要
不貞行為により慰謝料の義務が生じるのは、民法709条の不法行為が成立するためです。不法行為とは故意または過失により他人の権利または法的保護に値する利益を侵害し、これにより損害を生じさせることです。
故意とは、認識しながらあえて行う心理状態のことをいいます。
過失とは、認識すべきであったのに不注意により認識しないで行う心理状態のことをいいます。
不貞行為の場合には、「相手が既婚者である」ことについての故意または過失が問題になります。既婚者であることを知りながら交際していれば故意があり、不注意により既婚者だと気づかないまま交際していた場合には過失があることになります。これらの場合はいずれも、慰謝料の支払義務を負います。
しかし、既婚者であることを知らず、かつ、知らなかったことが不注意だったとも言えない場合には故意も過失もないので、慰謝料の支払義務を負いません。
2.どのような場合に過失が否定されるか
まず、交際相手が自分は独身であると偽っていたか、既婚者であることを隠していたことが必要です。
また、出会った経緯や交際中の周辺の状況など一切の事情を踏まえて、通常の人の判断力や注意力で独身だと信じてもやむを得なかったと認められることが必要です。判例では、交際相手が独身だと偽り、名前も住所も嘘を言っており、出会った場所がお見合いパーティーだったという事案で、過失を否定したものがあります(東京地裁平成23年4月26日)。
なお、結婚しているが離婚予定であるとか、夫婦仲が険悪であるとか、家庭内別居同然であるなどの説明をされていたとしても、既婚者であることを知っていた以上、慰謝料の責任を免れることは非常に困難です。裁判では、結婚していると知っていた以上、その実情について相手の説明を鵜呑みにするべきでなく、少なくとも過失は認められると判断されてしまうことが多いためです。
3.既婚者だと知らなかった場合の慰謝料の相場
以上に説明したとおり、交際相手が既婚者であると知らなかったことについて過失がない場合には不貞行為の慰謝料の支払義務を負いません。
また、交際相手が既婚者であることを過失により知らなかった場合については、知っていた場合(故意の場合)に比べて慰謝料の金額が減額される可能性があります。
一般的な不貞慰謝料の相場は
相手夫婦が離婚した場合 | 150~300万円程度 |
相手夫婦が離婚しない場合 | 50~100万円程度 |
ですが、この範囲の下限に近い金額になりやすいといえます。
4.交際途中で既婚者だとわかった場合には
過失なく既婚者と知らずに交際していたところ、途中で既婚者であることが判明した場合、その時点で関係解消すれば、判明前の交際については不法行為が成立せず、慰謝料の支払義務を負いません。
しかし、既婚者と判明しても肉体関係を伴う交際を続けてしまった場合、判明後の交際期間については故意による不法行為が成立します。判明の原因が交際相手の配偶者からの連絡だった場合などには、それ以降も交際を続けることが悪質と評価され、慰謝料の金額の増額事由になることもあります。