不倫をしたことや不倫の慰謝料を払わないことは、いずれも犯罪ではなく刑事罰が科されることはありません。
1.刑事責任と民事責任の違い
人が行った行為に対する法律上のペナルティのうち、刑事罰(死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料)によるものを刑事責任といいます。どのような行為に刑事罰を科すかはあらかじめ「犯罪」として法令で明確に規定しなければなりません。たとえば、物を盗んだ犯人が警察に逮捕されて罰金や懲役などの刑事罰を受けるのは、「窃盗罪」という犯罪とそれに対する刑事罰が刑法に規定されているからです。
また、上の例で物を盗んだ犯人に対しては、盗まれた被害者が物の取戻しや損害賠償を請求することもできます。さらに、その請求権の内容を実現するために、判決等の債務名義を取得した上で、犯人の財産を差し押さえて強制執行することも可能です。犯人がこのような物の返還義務や損害賠償義務を負うことを民事責任といいます。
一つの行為から刑事責任と民事責任の両方が発生することは珍しくありません。被害者のいる犯罪では大体そのようになります。基本的に、刑事責任は国家が追及するのに対し、民事責任は被害者が自ら追及することになります。
一方で、民事責任は発生するが犯罪ではない行為というのもたくさんあります。不倫もその一つといえます。
2.不倫と刑事責任
(1)不倫そのものについて
かつて、刑法には「姦通罪」が規定されていたため、不倫そのものが犯罪とされた時代がありました。しかし、その内容は次のようなもので、男女平等の観点から問題がありました。
旧刑法183条 第1項 有夫ノ婦姦通シタルトキハ二年以下ノ懲役ニ處ス其相姦シタル者亦同シ 第2項 前項ノ罪ハ本夫ノ告訴ヲ待テ之ヲ論ス但本夫姦通ヲ縱容シタルトキハ告訴ノ效ナシ |
第1項が処罰規定で第2項は親告罪規定ですが、第1項により処罰対象とされているのは妻の不倫のみです。夫の不倫は不問でした。このため、戦後の憲法改正で定められた両性の本質的平等に反することとなり、1947年に削除されました。
これにより不倫そのものに対する刑事罰は存在しなくなりました。
(2)不倫の慰謝料を払わないことについて
慰謝料を払わないというのは、不法行為による損害賠償義務を負っているにもかかわらず、その義務を履行しないことをいいます。もっとも、慰謝料を払わないというのは、犯罪ではないため、刑事責任を追及することはできません。
しかし、判決等の債務名義を取得した上で、強制執行を申し立てた場合には、相手の財産を差し押さえて強制的に慰謝料を回収することはできます。慰謝料を払わない相手に対して可能なのは、基本的にはこのような民事責任の追及のみとなります。
(3)財産開示手続における陳述等拒絶の罪
民事執行に関する手続きの中に、相手の財産を把握するための財産開示手続があります。この手続きは債権者から申し立てることができ、債務者を裁判所に呼び出して財産の内容について陳述させるというものです。
債務者が、①正当な理由なく、呼出しに対して出頭しないこと、宣誓を拒否すること、②宣誓をした上で正当な理由なく陳述を拒否すること、虚偽の陳述をすることには「6月以下の懲役または50万円以下の罰金」という刑事罰が科されます(民事執行法213条1項5号・6号)。
したがって、慰謝料を払わず、財産隠し等によって支払いを逃れようとする相手に対しては、判決等の債務名義を取得した上で、財産開示手続を申し立てることによって、刑事責任を問える可能性があることになります。