たとえセックスレスであっても、配偶者以外の人と性交渉をすれば不貞行為になります。不貞は相手の方との共同不法行為なので、不貞をされた配偶者は、不貞をした配偶者と不貞相手のどちらにも慰謝料を請求できます。
1.セックスレスとは
セックスレスは夫婦の間に性交渉がないことをいいます。
その理由にはいろいろな事情があるので、それ自体は違法なわけではありません。
しかし、性生活は夫婦の婚姻生活の重要な一側面だと考えられているため、不一致の程度がひどく、夫婦の一方にとって耐えがたい状況だと客観的に考えられる場合には、婚姻を継続しがたい重大な事由として離婚原因になることがあります。
つまり、セックスレスを理由にした離婚が認められる場合はあります。
2.セックスレスと不貞行為
しかし、だからといってセックスレスの状態ならば不倫をしても不法行為にならないかというと、そうではありません。
そもそもなぜ不倫が不法行為になるのかというと、第三者と肉体関係を持つことが婚姻共同生活の平和の維持という利益を侵害するからです。
セックスレスであっても、婚姻共同生活が平穏に続いていたのであれば、不倫は不法行為になります。
平穏だったかどうかは客観的に認定されるもので、内心冷え切っていたとか、会話がなかったという程度では否定されません。
3.婚姻関係の破綻とは
もしも婚姻共同生活がすでに平穏に維持されていなかったといえる場合には、保護すべき利益がもともとなかったことになるので、不法行為になりません。このような状況を「婚姻関係の破綻」といいます。
たとえば、長年別居していて事実上の離婚状態になっているような場合です。婚姻関係の破綻は、離婚原因にもなります。そして、破綻後は、不倫をしても不法行為になりません。
4.「セックスレスによる破綻」という主張は認められるか
そこで、不倫をした当事者からの言い分として、セックスレスにより婚姻関係が破綻していたから不法行為にはならないと主張されることがあります。しかし、破綻の認定は簡単にはされません。
上述のとおり、破綻は客観的に認定されるので、外形が重要です。
性生活がうまくいっていなくても、表面上普通に家庭が営まれているのであれば、破綻が認定される可能性は非常に低いです。
判例には、6年2か月以上のセックスレスでもそれだけでは破綻を認めることはできないとしたものがあります(東京地方裁判所平成23年2月17日判決)。
セックスレスだったという事情だけでは、破綻が認められることはまずないと思われます。
5.セックスレスは慰謝料減額の事由になるか
「セックスレスだから破綻だ」という主張は認められにくいですが、セックスレスということを考慮して、慰謝料が低くなる可能性はあります。慰謝料は精神的苦痛を慰謝する金銭なので、いろいろな事情から精神的苦痛の大きさを金銭的に見積もります。
たとえば、破綻とまではいえないがかなり不仲であったような場合、精神的苦痛は比較的小さいと評価され、慰謝料が低くなることがあります。セックスレスも、不貞をされた配偶者が拒絶を続けていたようなケースでは、減額事由となる可能性があると考えられます。